第二十九話 旅


      

旅を好きな方は多いと思います。ですから、ヨットも旅を目的にクルージング艇を選択される方々が最も多いのは分ります。欧米では、この旅の他に、別荘的な使い方を目的にする方も多いのですが、日本では、そういう使い方は多くは無いと思います。

旅が目的ですから、セーリング性能というより、旅性能、セーリングももちろんしますが、操作性というより、操作はオートパイロット使ったりして、順番にゆっくりやって良いし、コクピットに居る間、そこをできるだけ、ゲストも含めて使い易い居住性を保ちたいと思います。

旅には明確な目的地が設定されます。ですから、早く、安全に到着したいわけですが、でも、それだけが本当の目的なら、車や電車、或はパワーボートの方が早いわけですが、でも、敢えてヨットでする旅には、その航程における情緒とか、雰囲気とか、味わいとか、そういうのを味わっていきたいというのもあると思います。そのプロセスの味わいはセーリングのプロセスでは無く、旅としてのプロセスですから、ここも重視して、たっぷり味わっていきたいですね。

クルージング艇においてはティラーより、ステアリングホィールが求められます。何故なら、ティラーはコクピットで左右に動かされますから、その範囲に座っているわけにはいきません。つまり、そのコクピットの後部には人が居られない。という事で、これがステアリングホィールなら、コクピットがより広く使える事になります。セーリングの操作性という点では、ティラーの方がコクピット前側の操作にすぐ手が届きますが、それより、クルージング艇としては、コクピットを広く使える方が良いとも言えます。

昨今のヨットでは、これでもかと多くの装備を搭載する事ができるようになりました。GPS、オートパイロット、温水、冷蔵庫、電動ウィンチ、メインファーラー、ウィンドラス、電子レンジ、エアコン、スラスター等々、必要に応じて、便利な機器類を搭載していけます。但し、これらの便利装備そのもの楽しみたいわけでは無く、これらを使って、楽に旅を満喫したいわけで、昔に比べたら随分簡単にどこでも行けるようになりました。

それでも尚、実際に旅に出れば、やはりいろんなノウハウが必要になります。行った先がコンクリートの岸壁で、エアーフェンダーが岸壁についたカキで破れたとか、係船ロープも長く必要かもしれない、行く航程で、潮流がきつく走れないとか、また、あそこには温泉があるとか、旨いものを食わせる処があるとか、そういうノウハウもあります。そういうのを近場から始めて、徐々に広げていく。これらの旅のノウハウに対して考え、工夫し、試行錯誤も生まれますから、それが、楽しさを超えた面白さになっていくんだろうと思います。もちろん、旅ばかりでは無く、1日という時間の制約がある時、セーリングも楽しんで頂きたいと思います。

上の写真はTES28というクルージング艇です。シングルでも可能ですし、充分なキャビンの広さもあります。このヨットの、クルージング艇として他には無い特徴としては、メインシートをステアリングの前に置いた事ではないかと思います。それにメインシートトラベラーも無くしてます。これには賛否両論あるんでしょうが、シングルの時、舵を持ちながらすぐにメインシートを操作できます。また、ブーム後端からのリードですから、操作する時の力があまり必要としないし、ましてウィンチも必要としません。

多くのクルージング艇のメインシートはキャビン入口のそのまた向こう側ですが、クルーが居ればそれでも良いのですが、シングルを考慮するなら、メインシートは舵を握ったまま操作できた方が良いと思います。ブローが入った時でも、さっとできますから。それに、トラベラーが無い。これも、そこまでの操作はしないという意味ですし、クルージング艇としては、それで良いと思います。これがパフォーマンスクルーザーなら、話は別ですが。

旅は一人でする旅もあれば、何人も一緒に乗る場合もありますから、どっちが良いとはいえませんが、この28フィートというサイズからしたら、シングルハンド想定にしておくと、どうにでもできると思います。個人がプライベートで旅を楽しむという場合、いろんな考え方があると思いますが、この28フィートというのは、良いサイズなのではないかと思います。昔は30フィートとか言ってましたが、最近のは幅が広くなり、キャビンも広くなりましたから、このサイズが良いかなと思います。


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