第三十九話 パフォーマンスクルーザーを基点として考える


      


旅もしたいし、ヨットに泊まるだろうし、それでいて旅以外の日常的な使い方にはセーリングを堪能したい。そういう方々もおられます。こういう時、旅の方に重きを置くか、セーリングの方に重きを置くか? それが悩ましい選択になるだろうと思います。どのヨットにもセールはあるし、キャビンもありますから、どっちもできます。

日常のセーリングを面白くと考えるか、長い旅における快適性を考えるか? これらは相反する特性になります。旅の生活の快適性を増やせば増やす程、セーリング性能は落ちてくる。セーリング性能を高めれば、高める程に生活としての快適性は落ちてくる。それが一般的な考え方です。

ところが、建造方法の進化や素材の進化によって、これが少し違ってきました。それを体現するのがパフォーマンスクルーザーです。サンドイッチ構造は、それまでグラスの単盤でしたので、強度を高めるに厚みをつけると重くならざるを得なかった。しかし、サンドイッチ構造によって、厚みをつけながらも、軽量化に成功しています。もちろん、この中身のコア材にしても、長い試行錯誤がなされ、現在では、様々な密度を持つコア材が造られ、強く、万一の船体破損があっても、全く水分を吸収しない、つまり、そこから横に水が広がらないコア材も造られています。 この事によって、排水量は劇的に軽量化を実現し、さらに、船体内部からの補強も、ストリンガーを積層、家具類も積層、バルクヘッドもしかり、という事で高い船体剛性を得ています。こうやって高いセーリング性能を獲得しています。

そして、この内装を見ますと、クルージング艇と変わらない充実さを持っています。だからこそ、パフォーマンスクルーザーと言うわけですが、クルージングしても良し、日常のセーリングにおいても、より面白く、楽しめる様になりました。また、そのセーリングにしても、操作は、むしろクルージング艇よりやり易いのではないかと思います。

さて、これまで、ヨットの中心は沿岸用クルージング艇と考えられてきました。そこから、外洋に行く人、セーリングをもっと求める人、等々によって異なる選択になるわけですが、これからは、このパフォーマンスクルーザーを中心に置いても良いのではなかろうか? 旅もセーリングも充実しています。 そして、そこから、否、セーリングは、あまり気にしないという事であれば、沿岸用クルージング艇に移行するだろうし、そうした価格も安くなる。 一方、キャビンはもっとシンプル化して、もっと速い方が良いとかになりますと、レーサークルーザーになります。 

さて、もうひとつ、こういうパフォーマンスクルーザーはシングルでもできない事は無いのでしょうが、それを強調して謳っているわけではありません。こういうパフォーマンスで、シングルを謳うのは、デイセーラーという事になります。何が違うか? 全長は小さなサイズから大きなサイズもありますが、最も異なるのは船体ボリュームを小さくしている。デッキの高さを下げて、幅をスリムにしています。その分、風圧面積は少ないし、何しろ、ボリューム感も減少しますから、圧倒感が少ない。これって、案外重要な要素だと思います。何しろ、シングルですから。その時、圧倒感が大きければ、マリーナから出すのも躊躇しかねません。

パフォーマンスクルーザーを基点にし、最低二人居れば操船は可能。 そこから、まずシングルを考慮するか、セーリング性能をどう考えるか、また、価格的に安くしたければ沿岸用クルージング艇へ、、或はもっとセーリングパフォーマンスを上げたければレーサークルーザーへと、この方が選択の理由が明確となって、選択し易くなるのではなかろうか?

さて、そのパフォーマンスクルーザー、上の写真はニューモデルのアルコナ345で、下はその内装です。この内装を見る限り、クルージング艇に見えます。不足は無いと思います。でも、一般クルージング艇よりセーリング性能は高い。



そうすると、何が起こるかと言いますと、例えば、何人かでピクニック的なセーリングを楽しむにしても、少し速いわけで、そうすると、セールフィーリングが良くなります。それは速いだけでは無く、高い船体剛性もあるので、セーリングに滑らかさを感じます。レスポンスも良い。こういう事が、セーリングに面白さを感じさせてくれますし、操作するにも面白さを感じてくる。

旅をする時は、エンジンを使う事が多いわけですが、その場合は、クルージング艇と変わらないかもしれない。でも、行った先でセーリングを楽しむには、一味違うわけです。こういう処を基点に考えた時、自分はどうか? セーリングはそこまで必要ある? 無い?、或はキャビンはどうでしょう? もっとシンプルなキャビンでも、充分に旅も楽しめます。また、シングルを基本にしたいなら、これを何とかできない事も無いが、もっと楽に行くならデイセーラーがる。

沿岸クルージング艇を基点として考えるか、パフォーマンスクルーザーを基点として考えるかによって、選択は違ってくるかもしれません。それで、後者を基点に考えるという事で、より選択の理由が明確になるのではないかと思います。理由が明確なら、そのヨットをより理解できるのではないかと思います。


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