第五十一話 楽しさ、面白さが基準


      

レースでは、他艇より、少しでも前に行くのが目標で、勝つのが一番です。でも、セーリングでは、自分が感じる楽しさや面白さを基準にします。今、快走している時、レースでしたら、そこに浸ってるわけには行きません。でも、セーリングでしたら、それを存分に味わいます。

セーリングには理屈があって、科学的に正しい走り方があります。でも、それは、より速く走る為とか、効率良く走る為とか、要は、レースにおいて勝つ為の科学です。また、便利艤装もそうですが、我々には感性があって、それはまた別の処に反応する事が多々あります。

セーリングは勝つ為では無く、効率良さを追及する為では無く、むろん、昨今の便利機器の便利さを味わう為では無い。でも、科学的な理屈を身に着ける事は重要で、便利機器を設置する事も重要で、でも、それらを、面白さを味わう為の手段に過ぎないと考えた方が良いのではないかと思います。

理屈を知った上で、オーバーヒールさせても良いし、風に対して、いろんなセール角度や形状を試して、どうなるかを見てみたい。そんな好奇心が、面白さを生み出していくのではないかと思います。多くの場合、最初は集中力を持って、誰もが練習しますが、ある程度乗れるようになると、好奇心が薄れていきます。そして、乗れるようになっているにも拘わらず、徐々に乗らなくなる。もっと知りたいという好奇心があれば、まだいくらでも面白さを見出す事ができるにも拘わらず、滅多に動かないヨットになってしまう。これが、多くのヨットの現状です。

クルージングもそうですが、常に、好奇心を持って、ちょっとした事にでも挑戦していくとか、探求していくとか、そういうものが必要だろうと思います。それが自分にとって普通になると、ずっと飽きないで楽しめるようになれるのではないでしょうか? 多少、変に思われる事でもやってみると良いと思います。

あるオーナー、もう既に引退されましたが、年に1回か2回、数週間のクルージングに出かけ、それ以外の日常はデイセーリングを楽しんでおられた。殆どが、シングルハンドで、ある時、風が弱かったのですが、4枚のセールを同時に展開しているのを見かけた事があります。通常のジブ、その内側にインナージブ、さらにバウスプリット船体にもう一枚のジブ。後で聞いてみると、遊びだもの、思いついたららやるだけさ。との返事。まさしく、これですね。面白そうだと思ったらやる。理屈は良いんです。それでどうなるか?と見たいだけ。面白くなかったら、やめれば良いだけ。

この方のエピソードですが、数週間のクルージングから帰る時、たまたま風が良かったから、そのままホームポートを通り過ぎて、北に向かって走り続けた。勝手気まま、自由自在、彼の基準は、まさしく、面白いか面白くないかにあったんだろうと思います。

ですから、理屈は学ぶべきですが、いつまでもそれに捕らわれる事無く、一旦忘れて、自分の面白さを追及する方向にスイッチしたら良いかもしれません。ジブだけで走ったら?、メインだけ、ジェネカーだけ、セーリングで大きな円を描いてみる、行きをアビームで走って、Uターンして、走ってきたそのままのコースを戻ってきたら、風向はどうなる? 考えてみたら、いろんな知らない事があると思います。

そんなこんなを何年も遊んできたら、風とセーリングとの関係が良く解る。誰よりも速く走れるかどうかでは無く、誰よりも風とセーリングの関係を知る事ができるのではないかと思います。セーリングの面白さはそんな処にあるのではないでしょうか。

これはクルージングでも同じだと思います。いろんな処に行けばいろんな事に遭遇して、その分多くのノウハウが積み重なっていきます。それでも、知らない事はたくさんあります。セーリングにしても、クルージングにしても、新しい何かを追い、知る事が面白さになり、それは好奇心から生まれていく、その好奇心は、面白さの探求にあるのではないかと思います。


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