第六十四話 パワー&セール マーケット


      

日本を見ても、世界を見ても、圧倒的にヨットよりパワーボートの方が、マーケットは大きいです。それは今に始まった事では無く、昔からそうでした。その理由はいろいろあるんでしょうが、この市場を受けて、近年では、特に大手の沿岸用ヨットを建造する量産プロダクションの造船所がパワーボート市場に乗り込んで来ました。ご存知の通り、ベネトー、ジャヌー、ババリア等々ですが、そして、アメリカの大手と言えば、カタリナヨット、この度、アメリカのパワーボート、トゥルーノースを買収し、パワーボート市場に参入を開始した様です。上の写真が、そのモデルのひとつです。アメリカ東海岸の典型的スタイルです。トランサムデザインは特徴的ですね。

それは兎も角、ヨットの大手がパワーボートマーケットに進出していくのは、そのマーケットの大きさに対する魅力も、もちろんありますが、それだけでは無いと思います。何故なら、ボートマーケットが圧倒的に大きいのは昔からそうであって、何故、今頃の進出なのか、という点です。

あくまで推測ではありますが、恐らく、沿岸クルージング艇が、そろそろ行きつく処まで行った感があるのでは無いでしょうか? ご存知の通り、ここ20年ぐらい、クルージング艇のボリュームは拡大し続けてきました。そのお陰で、昔の同サイズモデルに比べて、キャビンは非常に広くなりました。 また、造船所が造る船体のみならず、艤装品メーカーの進化もすさまじく、カーボンマスト、電動ウィンチ、バウ&スターンスラスター、電動式のセールファーリングシステム、オートパイロットや計器類も進化しています。

もちろん、今後の進化もあると思います。ですが、艤装品は各メーカーが研究、進化し続けますが、船体としてはどうだろうか? 見た目のデザインは非常に重要ですから、これは進化していくでしょう、でも、沿岸クルージングヨットとしての他の要因は何を進化させていけば良いのだろうか?まあ、私の知らない処で研究が成されているとは思います。

また、もっと大きなサイズやパフォーマンス重視のヨットに進出する手もあるでしょうが、どうせ投資するなら、また、それに対するマーケットの大きさを考えると、やはり、パワーボートへ向かうのは自然な事かと思われます。

とは言いましても、ヨットの発展はもう無いのでは無く、特にパフォーマンスヨットとしては、まだまだ進化していくと思います。艤装品としては、既に、プッシュボタンセーリングは可能になっていますし、それが、もっと小さなヨットにも及ぶ可能性はあると思います。また、全てをコンピューターに繋いで、その時の風向風速に最適な操作の指示をコンピューターがしてくれるようになるかもしれません。そして、船体は当然ながら、デザインの進化というのもあり続けます。さらに、パフォーマンス艇としては、微軽風でもスイスイ、そして強風にも滅法強いなんてのも望まれます。また、新しいコンセプトのヨットも生まれるかもしれませんね。

例えばですが、私個人としては、デイセーラーが好きで、シングルだし、帆走性能は良いし、操作性も簡単にやれるし、やろうと思えば、細かいコントロールもできます。それに、フリーボードは低く海面が近いというのも、とても良いと思っています。キャビンは狭いのですが、全く気になりません。でも、皆さん、そういう方々ばかりではありませんので、このデイセーラーの特性を維持したまま、もう少しキャビンが広いヨット、今時のクルージング艇ほどでかいキャビンでは無くても、シンプルながら、個室トイレがあって云々というヨットがあれば、気に入られる方は大勢おられるのではないかと思います。簡単に言えば、現代のパフォーマンスクルーザーの幅をスリム化し、フリーボードを下げ、内装もシンプル化させれば良いのかな?

高齢によって、クルーも居ないし、ヨットからボートに移行される方もおられます。でも、やっぱり違うんですね。また、ヨットに戻って来られたり、その時はシングルでできるデイセーラーにしたり、やっぱりヨットとボートは、同じ海での遊びですが、全然違います。

これからも、ヨットがヨットである事のインテリジェンスや感性を重視しつつ、簡単にも、繊細にも走らせられるヨット、微軽風にも強風にも強く、面白いヨット、そういうヨットを開発していただければと願います。もちろん、美しいヨットです。


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