第十五話 現在と近未来を表すボートショー


      

寒くなるとボートショーが世界中で開催されるようになります。そこに向かって、造船所は新しいモデルを投入して、お披露目を行います。最近のそういうのを見ますと、デザイン的に大きな変化があるわけでは無く、どちらかと言うと、便利艤装とか、例えば、テレビが隠れていて、ボタンでせり出てくるとか、直接セーリング性能に関わるものでは無く、いわゆる便利とか、ちょっとした驚きを演出するものが多い様な気がします。これは何もヨットに限らず、車でも同じですね。

という事は、現時点で、ヨットの性能というものが、今のレベルで一旦落ち着いてきたというものかもしれません。みんな、コクピットは広くなり、テーブルがあり、シングルのステアリングからツウィンになり、まさか3つになんかできませんでしょうから。 それ以外の動きとしては、電動モーターの採用です。現在はディーゼルの方が多いですが、電動モーターの、これからの進化次第で、もっと採用されるようになるでしょう。ただ、これは充電問題がありますね。これも車と同じです。恐らく、車関係の会社が開発するでしょう。それがヨットにも採用されるようになる。まだ、先ですが。

次々に新しい電気艤装が増えていくに連れて、より操船は簡単になります。それが今のボートショーでお披露目されて、バッテリーの進化と合わせて、ますます電気需要は高まっていく。と同時に、これからの課題のひとつは電動器具の省エネ化もあると思います。

ボートショーはは近未来の在り方を示唆し、特に大型艇から始まりますが、やがてはそれがサイズダウンしたヨットにも採用されていきます。ますます便利になり、ますます電気が重要になる。大型艇では、コクピットテーブルがスイッチオンで下からせせり出てくるのは既にありますし、そのうち、キャビン入口の差し板とか無くなって、ボタンで自動的に開閉したり、キャビンに入れば自動的に照明が点灯して、そのうち、全てのコントロールが音声認識にて行われるようになるかもしれませんね。

そうなれば、スイッチなんか押さなくても、セールの展開からリーフ、角度調整やセール形状まで音声でやれる時代が来るかもしれません。そうなると、コクピットに鎮座するウィンチなんかも必要無くなって、デッキ下に隠れたモーターが全てを操作できるようになるかもしれません。未来のそんなヨットを見てみたい。

これらは全て、艤装品の進化という分野ですが、ヨットそのものの進化はどうなるか? 新しい工法、新しい素材、新しいデザイン、さらに、ヨットは人が楽しむ為にあるので、人の感性が重要です。操船の全てをコントロール下においたとして、便利を感じますが、ヨットには、感性に訴えかける楽しさや面白さが必要ですから、艤装品はどこの造船所でも採用できますが、ヨットそのものの在り方がどうなっていくか?ここがデザイナーや造船所の真価が問われる処かもしれません。そういう意味で言いますと、マニュアルというのも感性的には悪くない。

ヨットにとって最も重要な事は、便利なオートマチックでも無く、速さでも無く、スタビリティーでも無く、ティラーやラットの選択でも無く、結局、それが楽しいか、面白いかですから、感性が最重要ポイントではないでしょうか。その為に、便利さがあり、スピードがあり、スタビリティーがあると考えた方が良い。優先すべきは各人の感性です。何故なら、遊びだからです。そして、遊びは、我々にとって非常に重要である事が、このコロナ禍で解りました。遊びの無い人生なんて考えられない。コロナ禍でみんな遊びに飢えています。

ここの処は、便利さを追及してきたわけですが、それが極まってきた時、次に来るのは、人の感覚に訴えかけるものではないかと思います。これは非常に難しい課題かもしれません。便利は既に当たり前の時代では、例えば、セーリングにより滑らかさを感じさせてくれるとか、加速感とか、舵操作の鋭敏さ、スムースさとか、あらゆる箇所にグッドフィーリングを感じさせてくれるヨット、そういう課題に各造船所が競争する様になるかもしれません。これは便利とは全くの無関係、グッドフィーリングの世界です。これぞヨット遊びの真骨頂では無いかと思うのですが?

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