第二十一話 キャビン性能とセーリング性能


      

正しいか間違っているかの議論なら、まだ簡単なのだろうが、どちらも正しいから議論がややこしくなる。ただ、立っている位置が異なる。求める根本が違う。同じ立ち位置から議論しないと、どこまでも平行線を辿って、双方が言いたい事だけ言って終わる事になる。つまり、議論は立ち位置の違いから始めないと進まない。

キャビン性能を重視する人にセーリング性能を説いても説得力は無いし、セーリング重視派にキャビン性能を説いても、あまり意味は無い。双方の立ち位置は明らかです。どちらも、重視していない方はそこそこあれば良いと言う。そのそこそこが曖昧です。クルージング艇はキャビン性能が高く、セーリング性能は低くなる。逆に、デイセーラーはセーリング性能は高く、キャビン性能は低くなる。キャビンとセーリングは反比例の関係になるから。

そこそこあれば良いというそこそこをどの程度なら許容できるのか?どちらかと言うと、重視していない方のそこそこを取り上げて、議論した方が良いのかもしれない。クルージング艇のセーリングはどんなものか?デイセーラーのキャビンはどんなものか?もし、それらのそこそこを許容できるのであれば、これまでの選択肢には無かったヨットまでもが検討の対象になるかもしれません。つまり、立ち位置の違いを説得するのは難しいので、立ち位置の違いを理解した上で、反対側の要素の許容範囲を探る事にします。

但し、クルージング艇のセーリングについて、その性能をとやかく言う事はできても、説得力を持つのは非常に難しい。逆に、デイセーラーのキャビン性能は比較的簡単に想像ができる。目で見て、想像できるから。それで、目で見ては解らないセーリング性能をどう表現するのか?

同じヨットサイズで比較すると、クルージング艇の方があきらかセールが大きい。排水量もより重い。あるクルージング艇の31フィート、船体長は9.1m、排水量は4.7t、これに対してアレリオン30は船体長は
9.17mでほぼ同じ、排水量は2.9t。圧倒的に軽い。セール面積を比較すると、クルージング艇は47u(セルフタッキングジブ)、これに対してアレリオン30は43.2u(セルフタッキングジブ)となっています。これらのセール面積/排水量比を計算しますと、クルージング艇は17,これに対してアレリオンは21.6となります。この数値はそれぞれの排水量に対して、どれだけのセール面積(パワー)を持っているかを計算して、異なるヨットのセーリングパワーを比較するものです。数値が大きい方がセールパワーが大きい。つまり速い。

つまり、これは車で言うと、車体重量に対してどんなパワーのエンジンが搭載されているかという事と同じです。もちろん、走る性能はパワーだけが影響するわけでは無く、いろんな要素が含まれますが、でも、これはその中でも重要な要素です。上記のヨットで言うと、アレリオンの方がクルージング艇より約27%パワーが大きいという事になります。でも、セール面積は小さいわけです。

では、この17や21.6という数値が実際どんなものか?クルージング艇にとっての17という数値が、そこそこあると判断するならば、それで良い事になります。実際に乗り比べると良いのですが、そうも行きませんので、例えば、今自分が乗ってるヨットは、このセール面積/排水量比がいくつになるのかを計算してみれば、少し現実味が帯びてくる。それが17より高いか低いか、その今のヨットのセーリングに満足しているかどうか?そうやって判断していくしか無いのかもしれません。もし、満足なら、キャビン性能は高いし、セーリング性能はそこそこで、これで良いという事になります。まあ、今の処、この程度しか言えません。

クルージング艇はキャビン性能を上げる為に、ただ広くするだけでは無く、装備品も充実させます。それと同じ様に、セーリング重視ならば、セールパワーを上げるだけでは無く、軽量化と同時に船体剛性を高めます。ただ、本音を言いますと、商業ベースで考えると、今のデイセーラーのキャビンを少しだけ広くして、重くなった分、セールも少し広くしてとすると、もっと売れるのかもしれません。つまり、クルージング艇とデイセーラーの中間的なヨットです。これなら、キャビンに割り切れる人は随分多くなるのでは無かろうか?でも、そうするとデイセーラーの魅力が削減されるかな? デイセーラーはセーリングを楽しみ、キャビンはキャンプ的な気分かな?テントとは違うけど。これで充分と言えば充分だし、物足りないと言えばそれもそうかもしれません。要は立ち位置が違う。

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