第四十三話 ウィークエンダー


      

アメリカにはキャビンが全く無いデイセーラーがあります。CW HOOD 32というヨットで、2011年にボートオブザイヤーを獲得しています。排水量はわずかに1,300kgと非常に軽い。それもそのはず、このヨットにはキャビンは全くありません。つまり、セーリングを楽しむ事に徹底した、これぞピュアデイセーラーと言われたものです。

でも、この後、私が知る限り、これに続くデイセーラーが生まれてきてはいません。これはこれで多くのファンが居る事は確かですが、でも、そんなに広がって行ったわけではありません。それは何故か? ヨット先進国のアメリカであっても、やはり、そこまで割り切れる方々は多くは無いという事だと思います。

気軽に高い帆走を味わいたい。そういう人達は世界中にいます。でも、セーリングだけというわけでは無く、ちょっとした横になれるバースやトイレ、或いはミニギャレーぐらいは欲しい。場合によってはオーバーナイトの可能性もあった方が良い。そういう割り切れた人達でも、それぐらいは欲しいというのが本音の処でしょう。

それで、殆どのデイセーラーには、そういうミニマムなアコモデーションが設置されています。バウバース、シート、トイレ、アイスボックス又は12V冷蔵庫、清水、これだけあればどうにかなる。キャンプ気分で家族で泊まる事だってできる。キャンプより実際はかなり楽ですが。実際にやるかどうかは別にして、できるというのが重要なんですね。それで、デイセーラー/ウィークエンダーとしてそこを強調します。

セーリングには関係無いウィークエンダーとしての機能、でも、それが無視できない。それらの装備を加えれば重くはなる。でも、それでも今日では充分なパフォーマンスを確保できる事は解っている。何も超ハイスピードを狙っているわけじゃないから。だからと言って、ウィークエンダー機能をどんどん拡張していく傾向にはありませんし、望まれているわけでも無い。ミニマムで良い。クルージング艇にしたいわけではありませんから。

日本でも、これに同意される方々も随分多くなってきました。昔は相手にされなかった。でも、今は違います。何しろ、殆ど使わないという方々も増えてきたからですが、それでも、できればと言われるのが個室トイレです。これも滅多に使わないのですが、特に女性用として何とかしたい。それでプライバシーカーテンなんかを設置したりしています。女性が使う時はキャビン入口の差し板を閉じて、そうしたらキャビン全体が個室になって、女性でもトイレを少しは使い易くなる。でも、これって、女性との関係にも寄るかもしれませんね。

それをフライヤー33(上の写真)の造船所に相談しましたら、折りたたみ式のドアを付けようというアイデアを頂きました。トイレを使う時は、両舷のシートとその前のギャレー(左舷)、トイレ(右舷)との仕切りをドアで閉めて、使わない時はトイレ側が隠れるように閉じる。なかなかこういう改造を造船所が受けてくれる事はありませんが、この造船所は積極的です。上の写真のままでも、充分ではないかと思えます。

さて、要は、ミニマムながらも、如何にウィークエンダー機能を効果的に造れるか? 案外そういう事がデイセーラーを左右する事になるのかもしれませんね。でも、恐らく滅多には使わない。全く使わないかもしれない。でも、欠かせない。例え、そんなに使わないとしても良い感じに仕上がってるのが良いですよね。キャビンにテーブルがありませんが、デイセーラーには普通にありません。でも、コクピットテーブル兼用で設置できますし、まあ、キャンプ用のお店に行けば、いろんなテーブルがあって、それを使っても良い。
気軽に走って、最高のセールフィーリングを獲得、時に泊まりだってできる。でも、重要な事はクルージング艇とは異なるセーリングの妙を感じる事ができます。こんなヨットがあって本当に良かった。

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