第八十三話 遊びだもん

   
   

”遊びだもん”というセリフはあるベテランのオーナーがかつて言われた言葉です。遊びなんだから自分が思った通りにする。それが理屈に合わないとか、皆がやっていない事とか、そんな事にはお構いなし。これやったらどうかと思いついて、面白いと感じたらやってみる。そんな方でした。

ある時、メインセールのほか前側には3枚のセールが同時上がっていた。バウスプリットをつけてそこに一枚、通常のジブ、そしてその内側にもう一枚。実に楽しい方でした。またある時、クルージングに出かけて1ヶ月あまり、ホームポートに戻ってきてその湾の入口まで来た時、たまたま良い風だったので湾の入口の前を過ぎて北に向かってそのまま旅を続けた。計画はあって、無い。良いんだよ、どうせ遊びだもん。

彼の経験は長くベテランでした。自分でいろんな艤装を考え工夫し作ったり、それも彼の遊びでした。ただ彼はセーリングについてそれ程上手かったわけではないんです。でも、自分のヨットの操作においては自由自在だった。一般の常識に囚われる事無く面白そうだと感じた事をやる。日頃はデイセーリングをし、年に1回か2回、1ヶ月から2ヶ月のクルージングも毎年の事。仕事を引退してからは殆ど毎日ヨットに来て出すか出せない時はお茶して新聞読んで、何か工夫してヨット整備してという具合。私が知る限り最もヨットを楽しんだ人ではないかと思います。

見習うべきは彼の自分の遊びに対する姿勢です。彼のソフトは如何に自分自身を楽しませるかだったんだろうと思います。レースでは無い限り如何に速く走らせるかという技術面ばかりでは無く、それ以上に彼のソフトは重要だったと思います。セーリングにしたって上手いに越したことは無い。しかし、それ以上に自分を楽しまるソフトが重要だと思います。

セーリングはスポーツ、ピクニック、クルージング、名前はどうでも良くてこれしてみたい、これは何だ、あそこに行って見たい、そして実行するにどうしたら面白いかを考える。それに必要な事を工夫する。その結果が”良いんだよ、遊びだもん” でありました。 流石ですね。ヨットがどんなタイプでどんな性能を持とうが、それらが重要である事には違いないのですが、その前に根本的には自分なりの遊びのソフトがさらに重要なんだろうと思います。

何が面白いのか、どうしたら面白いのか、何が必要で何が不要なのか、正しい答えはどこにも無くて自分だけの正しい答えがある思います。それを他人がどう思おうが関係無い。自分がどう感じて実行できるかどうか。それに対して考えたり、工夫したりも含めて全部を遊びにできるかどうか?でも、そんなに難しく考える事はありません。 ”遊びだもん” ”自由にやるさ”。


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