第六十話 サイズを見なおそう

欧米では確かにビッグボートがたくさんあります。50フィート程度では、マリーナで見ても
あまり大きいとは思えない。70や80なんかもたくたんあります。かといって、みんなが
みんなビッグボートに移行するかというと、そうでは無い。一方で,ビッグボートから小さな
ヨットにダウンする動きもあります。どういうサイズでどのように楽しみたいか、これがそれ
ぞれ違うわけで、必ずしも、大金持ちはビッグボートというわけでは無い。他人は他人、
自分は自分、自分がどんな楽しみ方をするかが問題です。大金持ちでも、シングルで
気軽にデイセーリングを楽しみたいと思えば、小さなヨットで、品質を追求したヨットに乗る。
ビッグボートに比べれば、小さい分どんなに品質を高めようが安くあがるので、そういうヨット
も売れている。日本は予算があるとより大きい方に行くので、高品質のヨットは実に少ない。

個人が、個人として、自分の自由自在に楽しみたい、気軽に楽しみたいと考えれば、それ程
大きなヨットは必要がなくなる。逆に小さい方が気軽になれる。それでいて品質が良ければ、
なかなか良いもんです。シングルなら25フィートからせいぜい35フィートぐらい、本当はサイズ
で言うのはちょっと違うのですが、上部構造の大きなヨットから小さなヨットまでありますから、
一概には言えませんが。そういうヨットを一人で自由自在に操船できるとしたら、これは楽しい
と思えませんか?ヨットはボートや車と違って、アクセルさえ吹かせば走るというものではあり
ませんので、いろんな操作が必要になってきます。そういう操作をしなくても、走れるのは走れ
る。でも、それをする事によって、楽しさは何倍にもなってくる。そういうヨット遊びが最も楽しい
と思うのです。それらを自由自在のこなせるようになれば、面白いにきまっています。今の世の
中何でも便利になり、オートマチックで良いのは良いのですが、便利になった分面白いかといえ
ば決してそうでも無い。便利さは、面白さとは違うレベルにある。ヨットは便利だから乗るわけでも
無く、面白く乗りたいものです。ならば、そこに自分の意思がどれだけ入っているかに関わる。
自分でああして、こうしてというのがあるからこそ、面白いのであって、ボタンひとつで動く物に
乗っても、何らエキサイトでは無い。自分でシート引いたり、舵を持ったりして、その反応があるか
らこそ面白い。それをシングルでするにはやはり、ある程度のサイズの方が良いと思うのです。

それ以上のサイズを自由自在に楽しむなら、ダブルハンドを考える。どんなにでかいヨットであろう
ダブルハンドで自由に動かせるように考えるのが良いと思います。5人も10人も必要なら、気軽
さは無くなるし、まして大きなヨットを全て自分で把握するのは大変です。自由自在というのは、
ただ動かせるだけでは無く、ヨット自体の全てを把握するという事も含んでいます。

ヨットが長い間放置されている状態が多い今日、これは次のステップへ行く転換期ではないかと
思います。今までのやり方ではもう楽しくないですよと、知らせてくれているようなものです。戦後、
ヨットが普及し、マリーナがあっちこっちできて、ヨットが少しではありますが広がってきた。でも、実
際、ふたを開けてみると、ちょっといまいち使えない。今から思えば、ヨットがまだ全体的に小さかっ
た頃の方がヨットは良く動いていた。バブルで急激にヨットがでかくなり、一見良い事のようだったが
結果、動かなくなってしまった。自分のスタイルに関係無く、でかくしたせいではないかと思います。
みんなでかくなって、自分も、という事にしたのだが、そうする風潮でもあった。でも、本音は違うと
思うのです。今、ちょうど考え直す時期ではないでしょうか。自分のスタイル、時間の取り方、家族
仲間、仕事の場所や家の場所もあるでしょう。そういう事を考えて、今最も楽しめるスタイルはどんな
ものか、そこから考えて、ヨットを選択する方が良い。自分のスタイルに合わないヨットを持っていては
いつまでたっても、持っているという事実だけで、味わう事などとういていできません。

結局、人生は何を持ったかというより、どんな事を味わったかではないでしょうか?死んではもっていけ
ません。生きている間に、たっぷりと味わう。良いことも辛いことも、味わう。それが豊かさなのではない
かと思います。持っているだけでは、物質的な豊かさはあるが、心の豊かさを無いと日本では言われま
す。それは政府のせいでも世間のせいでも無く、年金のせいでも、税金のせいでも無く、自分がそれを
求めないからではないでしょうか。求めれば、今できる事をすれば、できるようにすれば、そこに豊かさ
があると思います。どうか、そこにあるだけにせず、経験して頂きたい。それが今できないなら、できる
ように工夫をして頂きたい。それさえできなければ、ヨットは一旦売って、できる時が来た時にするのが
良い。せめてほったらかしにはしないで頂きたいと思います。

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