第十話 ファーリングジェノア
1枚のセールであらゆる状況に対応しようという事ですから、土台無理があります。しかしながら、 レーサーのように何枚もセールを持つ方が大変ですし、お金もかかれば、クルーも居る。それで ファーラーなら1枚でOK。しかしながら、強風でも使うのですから、必然的に生地は厚めになります。 つまり微風用のライトジェノアでは無い。 そこで、ファーリングジェノアについて考えます。本来はセールを完全に巻いてしまう収納として 考える。そして出す時は全開にする。これが本来の考え方だと思います。強風で半分くらい出 すというリーフした状況をも作れますが、効率としては非常に宜しくない。してはいけないと言っている のではありません。効率は良く無いという事を知っていただきたいだけです。何故か、セールを巻くと セールのタック方面とハリヤード方面でのテンションがかからなくなります。すると必然的にドラフトは 後ろに下がる。後ろに下がると、そのセールはヒールさせる力が大きくなり、前進する力が減少します つまり、本来そのサイズのセールなら、ハリヤードを引いて、ドラフトを前側に移動できますが、ファー ラーではできないという事になります。でも、役には立ちます。 サイズですが、150%から100%以下まで、通常、130%から140%程度のセールを使っている方 が多いと思います。この%というのは、Jの長さ、フォアステーのチェーンプレート位置からマスト前まで の長さを言いますが、これを100%にして、フォアステーから直角に引いた線で、Jの長さに対して、ど のくらい長いかを%で言います。フォアステーのチェーンプレート位置から測って、何%ではありません。 フォアステーから直角に線を引いて、セールのクリューまでの長さです。 昔は、セールの例えばレギュラーとか、No4とか、小さいセールになりますと、フォアステーのてっぺん では無く、途中にセールピークが来ていましたが、最近はアスペクト比の高いセール、100%程度でも フォアステーのてっぺんにセールピークが来るセールが増えてきました。そして、クリューの位置はフォ アステーからの長さが決まれば、高い位置だろうが、低い位置だろうが、面積は同じです。ファーラーの 場合はドラムがありますから、少し高い位置にもっていかないとセールが巻き取れなくなる。でも、できる だけ低い方がセールにかかる風圧中心が低くなるので良いのではと思います。 さて、今度はクリューに結ばれたジブシートですが、これはサイドデッキにある長いジェノアトラックのブロッ クにリードされますが、その位置を考えます。基本的にはセールのフットとリーチに均等にテンションがかか る位置にリードブロックをセットします。シートを引けば、フット、リーチの両方にテンションがかかります。 通常はこれで、シートを出したり引いたりしますが、もう少し考えて見ますと、ヨットは真の風では無く、見か けの風で走ります。ヨットが進むと見かけの風は前側にシフトしますので、例えば、風向風速計で30度で 上っていると示しても、タックするのに60度で良いかと言いますと、そうはいかない。例えば、左舷前方45 度から真の風が吹いているとして、ヨットが前進して風が前側に周り、風向風速計で30度を示すとします。 コンパスを見て、60度舵を切って進むとすると、実際は真の風に対しては15度しか舵を切っていない事に なりますので、これでは上れない。90度舵を切ると、真の風が右側に45度という事になる。実際はタック すると艇速が落ちるので、風に対して少し落として走り、スピードがでてきたらぎりぎりまで上るというやり方 の方が良いようです。もちろん、それに対してセールも少し開き気味でスピードつけて、スピードが上がったら シートをもっと引いて上る。 風というのは高い位置の方が強く吹きます。つまり、デッキ近くよりマストトップ方が風速は速い。という事は セールのカーブが上から下まで同じというのはどうでしょうか。解りやすく言いますと、デッキの所で10ノット の風が吹いて、マストトップあたりで11ノットの風があるとすると、ヨットが5ノットで走るとすると、デッキ近く は10ノットの風+5ノットの艇速になり、風を斜めから受けていますので、艇速の影響分風は前側に回る。 マストトップは11ノット+5ノットの艇速ですから、風の強さが1ノット分速いわけで、前側にシフトする風の角 度は前側に回る影響が少し少なくなります。解りにくいでしょうか?想像してみてください。風が遅い方が 同じ艇速ならより影響を受ける、より大きく前側に移動するという事です。そうすると、セールはフットをタイト にしめても、セール上部側は少し開いた方が角度としては良いという事になります。属に言うツィストです。 ジェノアをツイストさせるには、リードブロックを少し後ろに移動させる。すると、リーチ側のテンションが少し 緩み、フット側nのテンションが増す。セール上部が少し開きます。リードブロックを前後に移動させるテークル を組んでいるなら、これで簡単に上部から風を逃がす事もできます。まあ、ここまでする必要も無いかもしれ ませんが、知識として知っていて損は無いと思います。ついでながら、ハリヤードを引くとラフだけでは無く、リ ーチ側にもテンションがかかりセールは閉じる事になります。という事はリードブロックを少し下げた方が良い。 通常のヨットにはこういう装置はつけていない方が多いので、そうすると風上側のブロックをタック前に移動する か、或いはある一定位置のままにしておくか、乗り手次第ですが、ジェノアのセールコントロールはこれにハリ ヤードでテンションを変える事ぐらいです。ついでながら、ファーラーの場合、一旦セールを上げるとハリヤード はほったらかしというケースが多々あるのですが、風が強まれば、ハリーヤードは伸びるし、セールも伸びる。 するとドラフトは深くなり、位置も後ろに下がる。こういう場合はハリヤードを締めた方が良い。そして位置を前側 に移動させます。これをしないと、ヒールがきつくなります。した方が楽に走れます。もうひとつ、ハリーヤードが 同じ位置で常にタックしたりしますから、セールを降ろしてみると、すれた部分が切れかかっているという事も ありますので、ファーラーといえども、たまには降ろして点検した方が良いです。 ハリヤードを引いてテンションをかけても、フォアステーがセールにかかる力で丸くカーブを描くようになります。 これもヒールをきつくします。それで、バックステーアジャスターを引いてフォアステーにテンションをかける。 するとのぼりも良くなるし、ヒールも軽減される。 こういう操作はスピードを増すことになります。クルージングだからスピードは出さなくても良いと言う方が多いの ですが、スピードが出るという事は滑らかであり、楽にもなる。そして、スピードも体感できるのですから、この 方がヨットにとっても、乗ってる人間にとっても良いと思いますが、どうでしょうか?風が強まって、ただ、シートを 出して風を逃がす。でも、も少し工夫をする事によって、もう一段上の世界が見えてくる。それをするかしないか でしびれるようなセーリング体験ができるとしたら、いかがでしょうか?レーサーだけがヨットでは無い。 |