第十九話 9/10フラクショナルリグ

最近のフラクショナルリグでは昔のように極端では無く、フォアステーの”I"ポイントがマストトップ
から少し下、9/10リグが多くなりました。当社のコメットシリーズも同様なのですが、これに
スウィングバックしたスプレッダーの組み合わせです。

ランニングバックステーはもちろん無しにして、メインセールのドラフトコントロールをし易く、また
尚且つバックステーアジャスターを引く事によって、フォアステーのサギングも取りたい。それで
マストも少し太めか、そんな感じがします。また、加えて、外洋艇の場合、大きな比率のフラクシ
ョナルではランナー無しではちょっと危ないかもしれない。悪い言い方をするならば妥協とも言え
ますが、見方を変えれば、プロのレーサーでは無いので、比較的コントロールがし易い、かつ安全
面を考えてではないかと思います。

デザイナーが共通した認識でもって、時代の流れに合わせてプロがデザインしますので、同じよう
なコンセプトのデザインに甲乙はつけがたいものです。後は、造船所側に任されます。デザイナー
は船体の形状であるとか、室内レイアウト、リグ、セールプランなどをデザインしますが、それだけ
ではヨットにはならない。それで実際の建造にあたって、どういう作り方をするかは、造船所次第
という事になります。例えば、全く同じデザインであっても、造船所によって、内容は変わります。
どういう素材を使うか、ボルト1本にしても何本使うか、工法はどうするか、つまり、これがオーナー
側を悩ます事になります。見かけは同じ、でも中身は全く異なる。そういうヨットが出てきます。

柔らかい船体は船体を曲げてしまう。もちろん、どんなヨットでも、バックステーアジャスターなどで
引けば、ある一定以上の力を加えれば、船体が曲がってきます。いくらバックステーを引いても、
効果は出ず、船体が曲がるだけ。剛性の弱いヨットはこれが始まる時期が速い。船体が捩れれば
場所によっては水漏れの原因になったり、窓にクラックが入ったり、デッキとハルの接合部から水
漏れするヨットもありましたね。水漏れだけならまだしも、これが原因で錆びが出たり、機器の故障
となる場合もある。ヨットは強い方が良いし、長持ちします。

さらに、セーリングしていて船体の柔らかさも感じます。まあ、時化に遭遇しないなら、どんなんでも
良いのでしょうが、でも、硬いしっかりした船体のヨットは、大時化でも安心なんですね。頼りになり
ます。船体剛性はハルが厚ければそれで良いかというと、そうでも無い。厚ければ強くはなります
それで、サンドイッチ構造にして、重量を増やさないで厚みをつける。でも、それだけでは無い。

船底内部のストリンガーの造り方、設置の仕方、バルクヘッドの設置の仕方、家具類の設置、こうい
うものが全て重なり合って、全体の剛性となります。これは材料の良し悪しもあるでしょうが、主には
工法に追う所が大きいと思います。接着だけの場合とラミネートする場合。ラミネートも一部か全部か
良く、ロイズ規格やアメリカにも規格があります。これらの規格はしなければならないものでは無いだ
けに、例えば、一部のみを規格に通し、あたかも全部それに従って建造されたかのような物もある。
正確に言えば、どの部分がその規格なのか、あるいは全部かと問わねばならない。
まあ、それ辺は造船所の評価レベルを信じるという事で良しとしなければならないでしょう。

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