第二十話 デザイナーのぼやき
もう10年くらい前になりますか、あるデザイナーと知り合いました。かなり有名な方です。彼の ぼやきは、自分がこういうデザインと思って起こしたデザインが、造船所において、かってに変更 される事があるという事でした。力関係なのでしょうか、彼は造船所に対して文句は言っていな かった。 どういう変更をされるのかと聞きますと、例えばフリーボードを少し高くするとか、船型を少し平たく するとか、そんな事を言っていました。結局、キャビンスペースを大きく取る為です。その方が売れ るからだという事です。そして、そこの造船所の担当者に話しを聞いてみますと、買うのは男じゃな い女だ。と言ってました。男が奥さんの許可無く買える奴はいない。だから、奥さんが気に入らない と売れないんだという事でした。なるほど、ですね。それで、最高を求めるにはカスタムしか無いと 言われる所以ですね。 こんな話をしますと、プロダクション艇は買えなくなりますが、どこの造船所でも多少はこういう事が あるのかもしれない。でも、そのうえで、見極める必要があります。性能と付加的な物、性能が増せ ば、付加的な物は下がる。その逆もしかり。よって、その中で、どういうコンセプトを造船所が持って いて、自分の求める物にどれだけ近いかを見なければなりません。 安いヨットと言っても、1000万とか2000万とかするわけですから、そう簡単には行きません。例え ば、DIYの店に行って、自分で組み立てる式の本棚を買う。本棚として、ちゃんと役に立ちます。でも、 同時に、高い本棚もある。重厚で、無垢材を使い、職人が手作り、うんぬん。どちも本棚として使え ます。ヨットも同じです。ヨットとして使える。ただ、問題は造船所側にあるのでは無く、買う側にある。 買う側が何を求めているかです。そこをきちんとしていないと、フラストレーションが残ります。自分が どのレベルのヨットがほしいのかです。 今のところ、将来、新しい素材や工法などの開発がなされて、画期的技術の進歩が無い限り、私は 年間の建造艇数と価格,造船所のある現地での価格を見ます。こうすると、だいたい想像はつきますし また、外れてはいないと思います。量産するには量産するやり方があり、それに見合う値段のつけ方 がある。でないと、市場に見捨てられます。今や情報化時代ですから、隠せない。建造艇数が少ない 程、職人の手間をかけられる。だが、その分高い。高くても市場に生き残っているのは市場が認めて いるからであると思っています。 現地価格は2種類あって、ひとつは代理店マージンを含むもの、このマージンも大小それぞれです。 これによって販売価格は変わってきます。もうひとつは代理店マージンを設定していない物もある。 小規模造船所に多いのですが、こういうケースは購入者からマージンはもらってくださいという考え方 です。 品質に関係無く、小規模だから高いんだという方がおられますが、今のところヨット建造に関しては、 これはあたらないと思います。品質が同じで価格が高いなら、市場はそれを見捨ててしまう。私の経験 では小規模生産の所は品質勝負ですから、良いヨットが出てきます。それに、儲かる事は資本主義の 企業である限り大事な使命であるが、同時にプライドもある。 それじゃ、誰でも高いヨットを買うべきかというと、そうではありません。ちょっとそこらに買い物行くのに ポルシェやベンツじゃなくても良いでしょう。それと同じです。ただ、それにベンツの性能を期待してはい けません。ただ、それだけです。ですから、そうならないように、ヨットを見る、自分の買いたいモデルだ けでは無く、全体を見る必要があると思います。そうすれば、だいたいのレベルか解ってくる。そうしたら 自分がどのレベルがほしいのかで決める事ができる。世界一周しようか、という人と湾内しか乗らない 人が同じヨットであるわけが無い。それぞれが違って良い。違うべきです。 |