第五話 マリーホルム 33

オランダ製のこのヨットはクラシックデザイン、ロングキールを持つ典型的な外洋艇です。
ロングキール艇に共通する船型は船底がフラットでは無く、かなりの鋭角になっています。
外洋で遭遇するであろう時化に対して、波にソフト、つまり、フラットな船体がバンと叩くのに
対し、波に突き刺さるように入り、叩かない。ソフトな乗り心地となるわけです。その反面、こ
ういう船型はスピードを出すにはより大きなパワー、つまり大きなセールが必要になってきま
す。と言っても、同じ艇速を出すにはフラットな船底より大きなセールを要するという事です。

一般のヨットが強風でリーフしたりする時、そのままフルセールで走れる。つまり、重心はかな
り低く設定され、排水量も重い。強風になれば力を発揮すると言えます。つまり外洋向きなの
です。ところが、このヨットの標準セールはフルバテンメインとセルフタッキングジブです。また、
フラクショナルリグでメインセールの方が大きい。外洋艇ではありますが、これは恐らく、日常
の近場のセーリングをシングルハンドでも操船しやすくするという意図ではないかという気がし
ます。外洋艇とは言っても、毎日、毎日、外洋ばかり走っているのかと言いますと、こういうヨット
でも近場を走る使い方の方が多い。でも、外洋艇である以上、外洋仕様でなくするわけには行か
ない。でも、近場もセーリングしたい。そういう表れではないかと思います。もちろん、ジェノアに
変えたりする事もできますが、セルフタッキングの場合、シングルで操船するにも、タッキングも
楽ですし、元々メインセールの方が大きいので、主にメインをトリミングするという事でしょう。
これにジェネカーがつけば、結構面白いかもしれませんね。

重いヨットは走らないと言いますが、まあ、確かに、微、軽風では遅い事は事実です。でも、強風
になってきたら、他のヨットはリーフをする。でも、このヨットはフルセールで走れる。そういう強み
があります。しかも重心はかなり低いので、シングルでも楽にいけるでしょう。ただ、ロングキール
は抜群の直進性を持つ代わり、舵効きが細かい操作はできませんので、狭いマリーナの出し入れ
などはちょっとコツが要ります。そのコツを掴めば、楽に走れる。まあ、ちょっと時化ても安心ですね。

外洋艇だけに、キャビンは重要です。何日も過ごすキャビンですから、それに造りも素晴らしいヨット
です。基本的には外洋艇、でも、日常のセーリングにも少し配慮したヨットという事になります。メイン
シートのトラベラーはもちろんコクピットにあります。


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