第七十九話 IORレーサー

固定観念というのは怖いもので、先日はそれを実感しました。IORのレーサーと言えば、昔の
レーシングヨット、キャビンには何も無いがらんどうのヨットです。そのヨットでフランスからクルー
ジングに来ている。夫婦らしき二人だけです。彼らは、半年か1年ぐらい仕事しては、半年から
1年ぐらいう休みながら、世界一周の旅を続けている。自分達のヨットがクルージング艇ではなく
レーシングヨットである事、そんな事に何も違和感を持っていないようである。彼らは、できる事
をする人達のようです。レーサーだろうと、クルージング艇だろうと、80フィートだろうと、30数フィ
ートだろうと、自分達がしたい、できると思った事をするようで、まあ、日本では余程の冒険と称し
ない限り、レーサーでクルージング、世界一周する事は無いでしょう。

これが要る、あれが要ると条件を整えるのが先決となると、何もできなくなってくる。あっという間に
時間が経ち、チャンスを逃してしまう。条件が整うまで待つというのは、慎重な姿勢で必要な事で
はあります。でも、度が過ぎるとできる事もできなくなってしまう。レーサーでクルージングに行けと
は言いませんが、今あるヨットでどうやって楽しむか、それを実行することが必要でしょう。そうして
いたら、必ず次のステップへ進めると思います。例え今あるヨット、或いは今買えるヨットでは満足
できないとしても、今はそれを受け入れる。そして、存分にそのヨットを生かし、楽しむ事ができれば
必ず、次のステップが近づいていると思います。

3,4年ほど前にSK25をレストアしましたが、再び、そのヨットがやってきました。今度の目的はジェネ
カーファーラーを使う目的でバウスプリットを造る為です。クラシックな雰囲気に似合うようにチークで
作成、なかなか良い感じです。最初からあったような、そんな溶けこみ方をしています。オーナーは
このちょっと重めで、あまり帆走性能が高いとは言いがたいヨットですが、セーリングに目覚め、この
ヨットでいかに快走するかを考えておられます。快走するには速いヨットである必要は無い。自分で
今あるヨットを十分走らせる事が大切でしょう。そして、もっともっと追求していったとしたら、腕が上がり
もっと速くと思ったら、その時は速いヨットが目の前に来ている時期となるでしょう。今、速く走りたいが
今のヨットは遅いから、速いのがほしいと思う。それもごもっとも。でも、今あるヨットをもっともっと速く
走らせるやり方も必要でしょう。
 

実物見ますと、なかなかのもんです。全体的に似合っています。クルージング艇でも速く走ろう。より
速くというのは、腕を上げる最も良い目的です。どんなヨットでもスポーツできます。スポーツすると
気分はさわやか、のんびりも良いけど、集中して走るのも良いです。

これは何用のヨット、あれは何用。確かに、そういうそれ用として建造されたヨットにはそれに従うのが
もっとも向いている。でも、どれにしたって、帆走するには違い無いので、帆走するのは速い方が面白い
し、速いのは相対的で、他のヨットと比較せずに帆走すれば、速い帆走をどれでも楽しめる。快走が
何より面白い。

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