第九十三話 COMET参上

イタリアのコマー社というのは日本ではあまり知られてはいないかもしれませんが、ヨーロッパの
ボートショーでもボートオブザイヤーを取得した、上行くヨットを建造しています。この造船所が建造
するCOMETシリーズ、33フィートが横浜に参上します。今は貨物船に運ばれている最中ですが、
8月にはマリーナに浮かんでいます。

何が違うかって、ハルの素材が違う、使っているステンレスが違う、構造が違う、職人が手をかけ
ている。そういう事です。これらは目には見えない事ですが、いや見る人が見れば解りますが、形
として現れる部分だけに力を入れても、それはたいした事では無い。売りやすい事にはなるが、
ヨットとして、やはり見えない部分にどれだけ力を入れているか、それが大きく左右するのではない
かと思います。その違いは乗ると解ります。特に時化た時は違う。それに古くなってもしっかりして
いる。という事はトラブルも少ない。安心感、美しさ、そういう事に繋がる。

残念ながら、最小サイズが33フィートですので、もっと小さいサイズもあればとは思うのですが、大
きい方は73フィートまで建造する造船所です。でも、大量生産の大手ではありません。少量、多品
種とでも言いますか、個人オーナー向けの高品質ヨットを堅持しています。

コンセプトはやはりセーリングに重点を置いています。もちろん、キャビンも充実していますが、ヨット
はあくまでセーリングするもの、従って、セーリングをいかに楽しむか、使いやすいようにするか、そう
いう点において私個人的に思うコンセプトに合っています。レーサーだろうと、クルージングだろうと、
ヨットはまずセーリングを楽しむ。これが第一だと思っています。それが面白いヨットは飽きないし、
キャビンライフもセーリングがあってこそと思っています。ヨットを家代わりに住む人は別ですが。

この会社にはちょっとしたエピソードがあります。かつて、イタリアの大富豪がこの造船所を買収に
かかりました。次回のアメリカズカップには、この造船所で建造した艇で挑戦すると発表、実際に
買収に動き出しました。ところが、当時、イタリア政財界汚職で摘発を受け、この大富豪はホテルで
自殺、全てはパーです。でも、そういう技術力の高い造船所であるという事です。

オーナーはセーリングをこよなく愛する方です。カッコ良く乗られる方です。シングルハンドでこのヨット
を乗りまわされるでしょう。そのリポートはまた後日、写真なども掲載したいと思います。ヨットは乗り物
です。乗りまわして、グッドフィーリングを得る。このフィーリングの為に全てはある。そしてこのフィーリ
ングは何物にも換え難い。究極的には、何をしたかより、どんなフィーリングを得たかの方が大事なので
はないかと思うのです。日本一周した、世界一周した。それらは凄い行為ですが、重要な事はその行為
よりもそこからどんなフィーリングを得たかではないかと思うのです。その行為が苦しみばかりなら、する
意味は無い。どんな素晴らしい感覚を得たか、その為にヨットをどう使うか。手に入れて、そこにあるだけ
では最高のフィーリングは得られない。どんなに素晴らしいヨットであっても、やがては消えて無くなるもの
です。でも、得た感覚は生涯残るものです。ヨットはあくまでその為の手段に過ぎない。どんなヨットかも
大切ですが、どのように使うのかの方がもっと大切で、全ては自分次第。

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