第二話 シングルハンドヨット

一人で全部するわけですから、出航からセーリング、帰ってくるまで全部やります。それは
二人居た方が楽です。しかし、ヨットは楽しに行くのなら別ですが、楽しみに行くのですから
これはただ楽すれば良いという問題では無い。クルーを雇って、自分はオーナーズチェアー
で座ったまま。これは一番楽ですが、それでは面白く無い。自分でやった方が面白いわけで
それも全部自分でやって、全部楽しめたら、これほど面白いものは無いのです。

それなりに覚える事はたくさんあるわけですが、全部覚えないとセーリングできないか、という
とそういう事でも無い。最低の知識は必要ですが、それさえあれば、後は遊びながら覚える。
遊びながら上達していくものです。

シングルハンド用のヨット、そういうコンセプトの基に建造されたヨットがあります。そうでは無い
ヨットとは何が違うのか。そこそこ小さなヨットなら、シングルで乗れる。舵を持ったまま、手が
届くからシングルで乗れると言いますが、それだけでは無い。慣れた人にやらせれば、でかい
ヨットでもシングルで乗れます。タック時にはオートパイロットで舵から手を離す事もできる。
しかしながら、できれば、そういう機械にはできるだけ頼らずに、自分の手でやる。しかも、スム
ースにやる。気持ち良くやる。自由自在にやる。大きなヨットで機械を頼りにシングルで乗るより
小さくても全部自分でやる方が面白いのです。

シングルハンドヨットはいくつか出ていますが、その共通するところは、舵を持ったまま手が届く
というのがありますが、同時にスタビリティーが高いといのがあります。まずはフリーボードが低い
これだけでも重心は下に下がる。殆どのヨットが天井が低い。キャビン内で真っ直ぐ立つ事ができ
ません。当社扱いのヨットでM36という36フィートもあるのですが、これでも天井は真っ直ぐ立てな
い。そこまで割りきるか?と思うのですが、重心が低いというのがどんなにありがたい事であるか
車でもスポーツカーなど重心が低い。まして、舗装されない海で走るのですから、重心が低いに
こした事は無い。腰の強さや、安心感や、とにかく乗って楽なのです。

シングルで遠くに行くという人も居るでしょう。でも、ここではシングルで気楽に近場をセーリングし
まくる。スポーツとしてのセーリングを想定しています。遠くに行くのはできれば仲間を誘っていき
たいです。その方が楽しいし、楽です。遠くはロング、日にちもかかる。ですから、日常はシングル
で縦横無尽にセーリングを楽しみ、遠くに行くときは知り合いのでかいヨットで、みんなで一緒に
行く。

充分に重心が低く、コクピットに座って、舵を握り、メインシートやジブシートに手が届く。そして、後は
工夫です。メインハリヤードを上げる。ジェノア上げる。そしてそれらをコントロールする。さて、一人で
どうやってコントロールしていくか。これらは自分のヨットがどうなっているか、それにもよりますが、そう
いう事を自分で使いながら、一工夫も二工夫もして、作り上げていく。これが自分のスタイルになります。
そして、これが楽しいのです。タックする時、どういう風に、どんな手順でやるか、どうしたらスムースに
タックができるか、二人いるなら簡単です。でも、自分一人でやるから面白い。こうやrって積み上げて
いった経験は、先々大きなヨットに乗っても活きてきます。でも、訓練ではありません。遊びです。
いくら遊びと言っても、緊張感を伴う事もある。でもそれそれがあるから、面白いのです。最初はエンジン
で出航するだけでも緊張するでしょう。でも、慣れてきます。そして次の段階の緊張が来て、それを
乗り越え、また新たな緊張感が来る。どんどんレベルは上がってきます。そして、緊張と緊張の間に
何とも言えない心地良い経験もする。これで、あなたもシングルハンドにはまります。

例え、小さなヨットでも、シングルで自由自在に操船する姿、でかいヨットをもてあますより、はるかに、
何十倍も楽しめる事、保証します。でかいヨットを否定しているわけではありません。先々、でかいヨット
に乗った時、シングルの時の経験が役に立つ。それにどんなにでかくてもダブルハンドでセーリングでき
ます。でかいヨットの方も、シングルハンドを楽しんでいただきたいと思いますね。美しいヨットで、シングル
で、自由自在。これが目標です。キャビンでゆったり過ごすというのは、もうちょっと年とってからにしませ
んか?いやいや、アメリカでは老人が現役ヨットマンとして楽しみたいという方も多く、大型からこういうヨット
に乗りかえる方も多いのです。84歳のドイツ人が、この間、ノルディックフォークを発注したそうです。
シングルハンドで始まり、最後にまたシングルハンドでしめくくる。結局、これがセーリングの要素としては
最も面白いのではないかと思うのです。

次へ       目次へ