第六十四話 ヨットは乗り物

乗り物には2種類あります。ひとつは仕事をする物、もうひとつは仕事をしない物
です。消防車、パトカー、トラック、これらは仕事をします。乗用車も仕事をする。
人を荷物を運ぶ。貨物船も仕事をする。飛行機もそうです。遊園地のジェットコー
スターは仕事はしない。遊園地側から見ると仕事をしていますが、乗る側から見
れば仕事では無い。ヨットも同じく仕事はしない。

仕事をしない乗り物は遊びです。遊びは、究極的には面白かったかどうか、それが
目的です。乗る事は手段にすぎない。ジェットコースターでスリルを味わう。この味わ
うのが目的です。うまい物を食べる、これもおいしいという感覚を得るのが目的です。
つまり、仕事は何らかのの成果を求めますが、遊びは成果を求めているわけでは
ありません。味わい、感覚を求めているのです。それは必ずしも良い感覚だけとは
限らない。スリルであったり、時には恐怖感であったり、爽やかさや、緊張感と緩和
であったり、様々な感覚を求めている。その為に遊ぶんです。その遊びが人間には
必要なのです。潤いを与えてくれます。

いろんな感覚を得る事が大切です。スリルを味わいたいと思っても、毎日ジェットコー
スターに乗りたいとは思わない。つまり、スリルを毎日味わいたいとは思わない。
たまにで良い。いくらうまいご馳走でも毎日同じ物を食べたいとは思わない。おいしい
もいろんなバリエーションがある。いろんなバリエーションがあるから、いろんな物を
食べたくなる。

ヨットをあるひとつの感覚だけに決め付けると、これと同じ事になります。もし、ヨット
をスリルを味わう為の手段と決めたなら、毎日は不要です。或いは、のんびり、穏や
かな感覚と決め付けたら、毎日は乗れない。同じ感覚しか得られ無いなら、人は飽き
てしまう。でも、それはヨットをそう決め付けたからです。ひとつの感覚しか引き出せない
ようにしてしまったからです。でも、実際は、ヨットから得られる感覚は実に様々です。
それも、必ずしも意図した感覚が、意図した時に味わえるとは限らない。スリルもあれば
爽快もあれば、緊張もあれば緩和もあり、感動もあれば恐怖もある。そして、それがいつ
おとづれるか解らない。つまり、動けば、そういういろんな感覚がやってくる。こんな乗り物
が他にあるだろうか。実に多くの面を持つ乗り物なのです。そして、多くの面があるからこ
そ、ひとつの感覚が実に強烈に感じられる。良い感覚を得るには、その反対に悪い感覚
があるからで、良い面だけを取ろうと思うと、その良いもなくしてしまう。

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