第八十六話 リズム

ある方からドライブ感について聞かれました。表現に苦慮しますが、ドライブ感というのは感ですから、ドライブして感じる感覚全部という事になります。という事は、全て好ましい感覚ばかりでは無く、いろんなドライブ感があると思います。

波の高い時、低い時、風の強い時、弱い時、そういういろんな組み合わせの中で、乗る感覚は全てドライブ感です。それには、快適、恐怖、スリル、だるさ、緊張、いろいろありますが、その中で、どんなドライブ感、どんな感覚を得たいかという事を考えてみてはどうでしょう。

誰でも、だらっとした感覚は好きでは無いでしょうし、恐怖感も好ましくは無い。でも、ちょっとしたスリルとか緊張感、そういう感覚を味わい、そして緩和され、また、風と波によってはまた緊張感が出てくる。もちろん、風が出てきて、風をセールからどんどん逃がしてやれば、緊張感も無くなるかもしれません。でも、自分でコントロールできるちょっとした緊張感、そして緩和はとっても面白い感じをもたらしてくれると思います。そして、腕が上がれば上がる程、そのコントロールの度合いは増してくるので、ますます面白さが感じられるようになるのだと思います。

私は音楽が好きなので、それに例えてみますと、音楽も全く同じ構成でできている事が分ります。
音楽の全体構成は、全体が32小節だとすると、最初の8小節で出だしから少し盛り上がりがあって緩和し、次の8小節で最初の8小節を少し変化させ、次の8小節が盛り上がり、いわゆるサビがきて、最後の8小節で、最初と繰り返しになるケースは多いです。これでワンコーラスです。
これは最初に少し緊張があり、続いて、緩和、次もその繰り返しのバリエーション、そしてサビでおおいに緊張感を与え、最後に少しの緊張と緩和で終わる。こう構成する事によって、人間の感覚を少しづつ盛り上げ、緩和を混ぜながら、感情に訴える。音楽もヨットもちっとも変わらない。

コード(和音)というのがあります。1曲を作るのに、三つのコードさえあれば1曲できると言われます。有名な”ユーアーマイサンシャイン”という古い歌をご存知かと思います。これなどたった三つのコード(和音)しか使われいません。それでも、心地良い感覚が味わえる。でも、この三つのコードだけではだんだん飽きてくる。それで、コードをどんどん増やしてバリエーションを造っていく。それによって何とも言えない、美しい和音ができたり、曲になる。でも、根底にあるのは、緊張と緩和の構成です。そうする事が、人間を飽きさせない、夢中にさせる、感動させる、そういう事になっていきます。

ヨットも全く同じで、緊張と緩和をうまく構成しなければなりません。それをしないと面白く無いのです。ただ、出てセーリングして帰ってくる。これなら誰でもすぐにできるようになる。でも、これは音楽ならたった3つのコードしか使ってないのと同じ、最初はそれだけでも楽しめる。でも、いつまでもここに居たら、誰でも飽きてきます。

それで、もっと良いセーリングをしようと意識すると、どんどんコードが増えてくる。そして増えたコードをうまく緊張と緩和で構成するには、また意識しなければなりません。ドライブ感はセーリングするあらゆる感情ですが、その中で、どんな感覚を得たいか、少しの緊張をコントロールしながらうまく走り抜けていく感覚、たまたまそうなる事もあります。でも、意識してそうしたという感覚、そういう物をできるだけたくさん持って、緊張と緩和を構成する。

そうすると自分のリズムが生まれる。微風の時のリズム、軽風の時、強風の時、自分の心地良いリズムから緊張を伴ったリズム、変化する波と風に対して、いかに自分のリズムをキープするか、それには腕も必要だし、練習も必要ですね。楽器を練習するのとちっとも変わりません。

楽器を始められる人は練習します。練習してうまくなったら、面白いという事がイメージできるからです。でも、ヨットも同じなんです。練習して、うまくなったらどんなセーリングができるだろうか。そのイメージをして下さい。自分が自由自在に操船して、帆走するイメージです。微風から強風まで、その時の自分のリズムをキープしながらセーリングする様をイメージして下さい。それがヨットをやる最大の理由です。

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