クローズホールド
セールを上げて、クローズから走るとします。ジブシートのリードブロックは基本位置、ジブのフットとリーチに均等にテンションがかかる位置にセットし、ジブシートをいっぱいに引きます。メインセールはトラベラーのブロックを中央にして、シートをいっぱいに引きます。ブームは船体の中央になります。これ以上、セールを内側には引き込めない状態です。クローズで最も風上に上れる状態です。 さて、風向が海面とマストトップ辺りでは風速が違いますので、ヨットが走り出しますと、見かけの風の風向が、マストトップより下の方が前側から吹いてくるようになります。この理屈は前に書きました。そこで、この見かけの風向に対して、セールの角度を上から下まで、同じ角度にするには、セールの上側を少し開く上体、つまりツイストさせた状態にする必要があります。 リーチを開く為に、メインシートを少し緩める。リーチのテンションが少し緩んで、開きます。同時にブームが風下に下がったら、その分、トラベラーで、風上に引き上げ、ブームを中央に戻す。どの程度開くかですが、トップバテンのリーチ部分の所が、ブームに並行になるぐらいとされます。これだと開いていないように思えますが、セールはカーブしていますから、もっとシート締めるとバテンはブームに対してもっと内側に入りますから、平行で少し開いた状態です。 ジブセールは、ジェノアトラックのリードブロックを少し下げるとリーチが開きます。但し、クルージング艇の場合、リードブロックの移動が段階的な移動になりますので、一段階が大きすぎるかもしれません。その場合は、ジブシートをわずか緩めるか、どっちが良いかは実際の艇で判断して下さい。できれば、コクピットからブロックとロープでテークルを組んで、コントロールを造りますと、任意の位置で無段階調整ができますし、その方が調整作業も簡単になります。 ジブもメインもいっぱいに引き込んだ状態で、これ以上は引き込めない状態です。これで、中風速ぐらいでしょうか、ヒール角度も20度〜25度ぐらい。艇によってスタビリティーが異なりますので、基準の風速はその艇の性能次第という事もあり、こういうセッティングをした時にヒール角度が20度〜25度ぐらいを基準と考えて良いと思います。この基準から、風が弱いか強いかという事によって、風をもっと捉える、或いは逃がすを考える事になります。 風を受けてジブセールには風圧がかかりますが、その為に、フォアステーが丸いカーブを描くようになります。これはセールとの兼ね合いもあるのですが、ファーリングジブですから、この状態で、サギングが大きすぎる、ドラフトが深すぎる場合は、バックステーアジャスターを引いて、サギングを軽減させます。バックステーも、この位置が基本と考えて良いと思います。もし、バックステーアジャスターの装備が無い場合は、できれば設置して頂きたいところですが、無いものはしょうがありませんので、できれば、バックステーのターンバックルを締めて、次のセーリングにはフォアステーにもっとテンションをかけておく方が良いと思います。今後、バックステーアジャスターの無い艇は、常に固定のままとなります。 サギングしますと、前側からセールが膨らみ、上り角度が悪くなります。もし、バックステーアジャスターがありますと、今後のいろんな状況に合わせて、調整がしやすくなります。 これで、そのヨットの基本になる風速とか、セールセットとかができました。今後は、これ以下の風、これ以上の風、波のある無し、等々に合わせて、いろいろ調整を図る事になります。 クローズホールドの走りは、風に向かって上っていく走りで、目標地点が、死角の90度の中にある事を意味します。もし、死角外ならば、一直線でそこに向かう事ができますが、死角の中にある事によって、いかにそこに近づくかが重要になります。直接そこには到達できないので、その目標地点にできるだけ早く近づきたい。それで、風に対する上り角度を稼ぎつつ、同時にヨットのスピードを考慮する事になります。上り角度が良くなると、スピードは落ち、角度を落とすとスピードが上がるという、面倒くさい事になっています。そこで、この面倒くさい事を面白さに変えて、ゲームをしようという事になります。 この角度と艇速との丁度良いバランスがVMGと言われるのがありますが、まあこれを見つけるのは難しいので、このあたりは勘で行きましょうか。角度を稼ぐ事とスピードを増す事、これらを意図的にやれると、ゲーム性が高まってきます。 例えば、タック直後はスピードが落ちます。それで、タック前と同じ角度で走るのでは無く、一旦、少し角度を落として、スピードをつけてから、再び上る。落とすと言っても大きく落とすわけではありません。少しです。或いは、風が弱まってきたら、一旦落としてからスピードをつけて上る。波があって、波にぶちあたってスピードダウンしたから一旦落とす、そういう事が考えられます。スピードがついたら、角度を稼ぎに行く。 これは死角があるクロースだからこその面白さになります。同じ事が後ろからの風の時にも言えます。その他の角度は、直接目標地点が狙えますから、そこに向かって舵を取り、変化する風に対して最適なセール形状と角度を調整する事になります。 クローズの場合、風速に変化が無く、風向が変わる場合、セール調整は無しで、舵で風向に対する角度が同じになるように舵取りをする事になります。ここで、もうひとつ面白い要素が加わる事になります。目標物が風向と一致して吹いてくるなら、右から行っても、左から行っても、同じ条件になりますが、これが風向が少し変わってくると、左右の条件が変わる事になります。 真正面からの風で、仮に右側に行ったとしますと、風は左斜め前方から吹いてきます。この風が、右側に少しずれたとしたら、今まで走ってきた角度では上れなくなります。従って、変化した風に対して同じ角度に合わせる為には、舵操作で、少し走ってきた角度から落とす事になります。でも、ここでタックしたら、どうでしょう。目標物に対して、風は右側に移動していますから、右側へ向かう時は変化した分、上り角度(目標物に対する)が悪くなっていますが、タックして左に向かうなら、今度はその変化した分、目標物に対して上れる(近づける)事になります。 クローズの走りで、こういう事以外にもいろんな事を考えて走るのがレーサーです。でも、そこまで行くのは大変ですが、かと言って、ただ何となく走るよりも、多少のゲーム性を持った方が面白いので、クローズで走る時は、例えば、風が吹いてくる方向を目標として、右か左かで走り始め、風向が変化したら、それに合わせて、舵で角度を合わせる、状況によってはタックする。そういう走り方をしてはどうでしょうか? そして、タックしたら、一旦は角度を少し落として、ジブシートを少し出して、メインシートは多分基本設定の時に、ツイストを作る為に、トラベラーのブロックを少し引き上げているでしょうから、それが今度は風下側にきますと、ブームは少し出ている状態ですから、そのままで、スピードが出てきたら、ジブシートを引き、メインのトラベラーも引き上げて、ブームを中央にセットする。 こういう角度という要素を取り込みますと、何となくタックするのでは無く、理由があってタックする事になります。風向の変化を感じ散らなければなりません。レース時の要素を全部取り込む必要までは無いと思いますが、少し角度を取り入れて、ゲーム性をもちますと、面白さが出てくるのではないでしょうか? |