|
昔は30フィートのクルージング艇というのがひとつの定番でした。それから時が経ち、その30フィートも、幅が広がり、高さも高くなり、船内も広くなりました。それはそれで快適なキャビン空間を演出しているわけですが、全体のボリューム感も大きくなりました。
一方、もっと気軽に、シングルも含めて家族で楽しめるクルージングヨットという観点から、それより少しサイズダウンしたサイズの要望も高まっています。ところが、大型化の傾向を受けて、30フィート以下のクルージング艇の建造が非常に少なくなってきたというのが現状です。
そこで、ご紹介したいのが、写真のTES28です。大型化も良いけど、実際にセーリングしたり、旅したり、泊まりこんだり、それを個人がシングルを含めて楽しむには、ちょうど良いボリューム感ではないかと思います。大き過ぎず、小さ過ぎず、それでいて必要な装備はちゃんとしている。
特にこのヨットをお薦めするのは、クルージング艇として良く考えられているからです。そのひとつひとつは細かな事ではありますが、これが実際に乗っていきますと、役に立つ事が分かります。その詳しい内容はTALKの第八話に記していますので、そちらをご覧頂きたいのですが、中でも特徴的なのは、ステアリング操作が油圧式を採用している事です。恐らく、他には無いんじゃないかと思います。
この油圧式ステアリングを採用する事で、一般のメカ式とは異なり、スペースを取りません。従って、その分、アフトキャビンが実に広く取れており、さらに、その部屋の左舷と後部の壁にはメインテナンスする為の扉がいくつも設置してあります。もちろん、エンジンへのアクセスも同様で、この事は重要で、ヨットは何十年でも使えるが故に、メインテナンスの重要度は高い。それにアクセスし易く造られているという事は、設計者/デザイナーの意図が見て取れます。
エンジンはヤンマーのセールドライブエンジン。マストはオンデッキ、従って、水の侵入はありません。また、ステアリング前のピデスタルには、計器設置の為に、広くスペースが設けられていますから、必要な計器、GPSやオートパイロットを目の前に綺麗に設置する事ができます。別途に計器ボックスを設置する必要がありません。
もうひとつ、このヨットの他に無い特徴があります。それはバウやスターンのキャビンクッションの下です。そこは一般的には広い空間で、物入になっています。このヨットは、同じ物入でも細かく仕切っており、収納が綺麗にできるというのもありますが、それ以上に、設置されたポンプ、計器のセンサー等々が独立した仕切られた部屋に設置されます。という事は万一、ホースからの水漏れとかあっても、その部屋内で収まり、いろんな処に回っていきません。また、さらに重要なのが、この仕切りが、船底に積層されていますので、補強材にもなっています。こんなのは、他にはなかなか無いと思います。こういう表面から見えない処にも気を使っている造船所のヨットは良いです。
ところで、セーリングはと言いますと、排水量は3,700kg、バラストは880kg、セール面積はメインが21.33u、ジブが13.66uです。これをいつもの様に計算しますと、SADRが約15です。クルージング艇としては、普通です。バラスト比は高くはありませんが、対セーリングに対しては高い安定性を確保、これが特にクルージング艇には重要です。それに、ハルはFRP単盤で、デッキは軽量化を図ってサンドイッチ構造、バラストも砲弾的に下部に重量を集めています。全てが、クルージング艇としての在り方を考慮されていると思います。
クルージングの旅は、エンジンを使い、セーリングも使い、いろんな箇所に寄って、楽しんでいく。さらに、ヨットに泊まったりして宿泊としても使います。それがひとりの事もあるだろうし、家族と一緒という事もあるでしょう。さらに、メインテナンスもし易い方が良い。そういう事を良く考えて造られているなと思います。また、細かい事ですが、ライフラインはワイヤーですが、コクピット回りだけはベルト式なのです。それで体をもたれかけても背中が痛くならない。思い当たるかと思います。痒い処に手が届いてます。だから一押しなのであります。
|
|