第三十三話 メトゥアヨット


      

いざ、造船所へ。世界的に有名なデザイナー、アンドレイ・フック氏は造船所の立派さで判断するのは間違い、そこから出てくるヨットを見て判断するべきだと言います。確かに、このPC47を建造している造船所は、近代的で立派な建物とは言い難い。造船所の名前は” メトゥアヨット ” カスタム建造専門で、我々が訪れた時には、83フィートと55フィートも別に建造中でした。フック氏自身も自分のヨットを2艇、ここで建造しています。この事からも解る様に、この造船所には確かな技術と、何と言っても丁寧で、手間を惜しまないで、より良いヨットを造ろうとする熱意が感じられました。

この造船所の社長はボラさん。二代目です。英国に長年住んでたそうで、英語は流暢、但し、アクセントがあって、時折分かりにくい処もあったが。スタッフは親子や兄弟で、この同じ造船所に勤める人達も居ました。今時は少なくなってきましたね。日本の昔ながらの、家族的で、和気あいあいな雰囲気が伝わってきます。場所は、前述したマリーナの同じ湾の中にあるちょっと東側に移動した処。車で15程度。一番左の黄色いシャツがボラさんです。



PC47の建造プロセスについては、CUSTOM YACHT PROJECT をご覧頂きたいと思いますが、彼らの姿勢は、一旦合意の上に決めた事であっても、実際に我々が見て、そのうえで様々な細かい変更に対しても、対応してくれるし、もっと良い提案も惜しみなく提供してくれる。細かい変更は造る側にとって面倒な事です。でも、そんな事は気にもしていない。

メインシートトラベラーのシステムを変更しました。その他、内装のソファーの高さ、クッションの固さ、カバーの生地、サロンとコクピット、チャート等のテーブルの高さ、ギャレーやトイレのカウンターの高さ、事細かに指示をしてきました。その他、計器の位置、カバー類の生地、キャビン入口のシステムの変更、アンカーチェーンの長さ、トイレのタイプ、蛇口のタイプ、その他、いろいろな事を変更、選択、追加等々をしてきました。これらに誠意をもって対応してもらました。彼らは、カスタム専門なので、慣れてはいるんでしょうが、でも、様々に対しては相応の知識と技術が必要です。チャートテーブルのレイアウトまで変更してきました。

さらに、各棚の仕切り具合、ベッドヘッドの新しい提案、コクピットテーブルにアイスボックスがあれば良いね。キャビン内の床は一般的なストライプでは無く、ちょっと新しいデザイン。それもチークの下地にグロスのニスをして、その上にサテンニス仕上げ。これで、木部が傷まない。天井はどうする? ギャレーシンクに蓋を付けよう。蛇口は上下に動くタイプ。冷蔵庫/フリーザーは日本製、様々な備品が、日本でも将来のメインテナンスを考えて入手し易い艤装品を採用する。そういう心遣いがありました。もちろん、決定するのはこちらです。押しつけがあるわけではありません。

さて、そんな造船所ともう一人大事な人を紹介します。造船所側のエージェントです。PCヨットのマークさん。彼は、デザイナーと造船所とを連携し、全てを取り仕切っています。彼の細かい建造リーポートがあってこそ、このプロジェクトが成り立っています。因みに、PCはパフォーマンスクラシックの略です。彼は、このデザインの他、レーサーやモダンデザインや、他のデザインと、その専門の造船所も仕切っています。ですから、あらゆるカスタムオーダーを受ける事ができる。

ところで、この造船所の近所には、数多くの造船所や艤装屋さん、金属加工等々がありますが、そのすぐ近くに整備、レストア専門の造船所があり、ボラさんの案内で中に入る事が出来ました。下の写真の様なサイズがざらにあり、メインテナンス中でした。





さて、毎週金曜の仕事終わりには、造船所のスタッフみんなで軽くお茶したり、一杯飲んだりするそうです。これもボラさんの心遣いかな? とっても家庭的。トルコのヨット文化は、日本より遥かに先を行く。もちろん、でかいヨットばかりではありません。小さなものもあります。そして、みんな綺麗にメインテナンスが施されている。特にこのボドルムという町は、マリーナと一体となって発展してきた様に思えます。

さて、次は、PC47と姉妹モデルのPC55の試乗です。次回へ続きます。


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