第三十四話 PC 55の試乗


      

建造中のPC47の姉妹艇、PC55の試乗機会を得る事ができました。因みに、PCはパフォーマンスクラシックの略です。クラシックデザインを求めつつ、ハイパフォーマンスを目指したヨットで、現在、PC47の他、PC37、PC55、PC66が既に進水しています。もちろんカスタムですから、サイズは自由に決める事ができます。

上の写真がそのヨット、PC55です。現地ではマリーナでは全てスターン付け、横側の桟橋は無く、バウ側にアンカーというスタイル。従って、スターン側の桟橋から乗り込む為に、全てのヨット/ボートはパッサレールという、板状の橋渡しが備えられています。トランサムから少し出ているステンレス金具に設置しますが、もちろん、この金具は取り外し式となっています。



乗り込むとこんな感じで、PC47も殆ど同じです。ウィンチは電動で、このヨットはメインはファーラーにはしていませんでした。メインシートはジャーマンシートシステムで、トラベラーコントロールもコクピットのウィンチにリードされています。つまり、前に行かなくて良い。



バウスプリットが特徴的ですが、ジブがバウスプリットに設置され、その先端にコードゼロやジェネカーというセールプランです。コクピットには大きなテーブル、そして中には冷蔵庫がありました。まあ、カスタムですから、どうにでもする事ができます。





さて、ご紹介、オーナーご夫妻です。奥様もヨットには良く乗られるそうです。


次は、PCヨットのマークさん。本拠地はロンドンですが、二週間に一度ぐらいのペースでボドルムにやってくるとか。彼のヨットに対する情熱は深い。知識や経験も豊富です。そうじゃなきゃカスタムなんてできません。


さて、セーリングですが、ひとつ残念な事が、こういう場合、外からヨット全体の写真が撮れないという事ですね。沖に出れば、ずっと向こう側にギリシャが見える。海は綺麗だし、気候も良い。ただ、この日は風が弱かった。



計器を見ると、、上りでアペアレント5.8ノットの風速で、ボートスピードはGPSで5.2ノットと出てたが、潮流も殆ど無いし、これはちょっと計器調整がちゃんとなされていないのではと疑問もありましたが、それは兎も角、確かに、この時の風の感じにしては速かった事は間違い無い。また、セーリングはスムースで、船体のしっかりした剛性を感じた次第です。このヨットではセルフタッキングにしていないので、タックの度に、セールを左右に入れ替えしましたが、クリューはマストのすぐ後ろぐらいだったので、それもスムース。但し、メインのフルバテンがタックしても返らないで、逆に反ったまま。その程度の軽い風だったわけです。

残念ながら、この日は、それ以上風が上がらず、もっと強い風での走りを味わう事はできませんでした。しかし、マークさん曰く、船体の重心の低さ、深いキールと重いバラストで、高い安定性を持ち、強風にも非常に強いとか。恐らく、波がある時も、バウの船底部は、少し角度がついていますし、非常に硬いので、波叩きも柔らかいだろうと思います。マークさんのコメントは信頼できると思いますが、でも、強風も味わってみたかった。



大口径のステアリングホィール、がたつきは一切無く、カチっとした感じ、それにとっても軽いので、サイドに座って指先で軽く操船ができる。キールが深いので、舵板も深く、前後に短く、下に長い。いわゆるハイアスペクト比、舵のレスポンスも非常に良く、操作していて面白いし、セーリングの滑らかさもあいまって実に気持ちが良い。セーリングそのものがグッドフィーリングとして楽しめる。これ、最重要と思います。前のテーブルの下にはGPSチャートプロッターが見え、ピデスタルにはそのリモコンがある。(上下にあるコントロールの下の分)、その上のはバウスラスターコントロールです。

この日の短時間のセーリングでは、この程度のコメントしかできませんが、ハイクオリティー、ハイパフォーマンスは間違いの無い印象です。ちなみに、最前部と最後部のバルクヘッドは完全水密で、万一の為にビルジポンプと警報がついており、その中間部には2個のビルジポンプとアラーム、それらの警報はコクピットテーブルの下にあり、ヘルムを取っている最中にでも聴こえるようにしてある。

結論から言うと、プロダクション/セミカスタム艇の最高峰と言われる某ヨットより確かに良い。同サイズでも約20%は軽い。このヨットはカスタムなのに、多分、価格はそれより安いと思われます。恐らく、トルコという人件費の影響は大きいのでは無いでしょうか。しかも、あれだけ手間をかけての建造にも拘わらず。ブランドという価値に支払うか、或は、ブランドを気にしなければ、こんなに素晴らしいヨットが手に入る。そう思わせてくれました。やっぱりセーリングはフィーリングが大事、スピードフィーリングももちろん含めて、全体がおりなすフィーリングの質こそが重要だと思います。

インテリアについても少しふれておきます。但し、このヨットがカスタムである事をお忘れなく。つまり、内外装はご希望によってどうにでも造れます。この艇は比較的シンプルにしてあり、ごてごてした感じがありません。この辺りは個人の好みですから、それぞれですが、個人的印象としては十分、否、とっても良い感じでした。



さて、最後に、もう一艇、PC66も紹介しておきましょう。カスタムではあるのですが、皆さん、このフックさんのデザインが気に入って造られていますから、大まかでは同じ様なデザイン、ただ、所々、細かい点ではオーナーの考えが反映されています。


ステアリングは木製でした。キャビン入口の左右にはチークを貼ってありました。


これらは姉妹艇ですので、同じというわけではありませんが、コンセプトは同じです。クルージング艇としての性能もありますが、それよりセーリングを重視したヨットです。でも、レーサーでは無い。あくまでセーリングを楽しむのが一番です。スピードフィーリング、操作フィーリング、波当たりとか、セーリングの滑らかさとか、兎に角グッドセールフィーリングを目指したヨットだと言えます。カスタムですから如何なるサイズでも建造できますが、小さなサイズより、大きなサイズの方が価格的メリットは得られると思います。何しろ、小さくても手間はかかりますから。


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