第三十八話 素材と施工


      

昔ですが、ある造船所が船体にケブラーを使っていると謳っていましたが、実際はほんの一部に使っていたに過ぎなかった。最近はケブラーよりカーボン、エポキシ等ですが、これらが素材として優れている事は解っています。でも、どこに、どれだけ使っているのか? それに、どんなタイプのヨットにでも使えば良いってもんじゃない。でも、こういう素材も重要なんですが、それ以上に、どんな施工をしているかの方がもっと重要ではないかと思います。

素材は、そのヨットが何を目指しているのかによってはとても影響があるでしょう。ハイスピード狙いなんかですと、軽量化目的というのがあります。それでいて船体の剛性を高めたい時、カーボンは有効には働く。でも、もし、クルージング艇なら、多少重くなっても良い。むしろその方が良い。何しろ、クルージング艇は、旅の準備として多くの荷物を積み込みますから、それでもセーリングの特性に影響を受けにくいです。

素材は素材としての特性が有効に作用する時には効果的です。でも、それよりももっと大事な事は、きっちりした構造に対して、きっちり作業を丁寧にやって、しっかりしたヨットを造ってもらいたいと思います。素材はそんな基本がきっちりしてこそ効果がある。ただの宣伝効果を狙ったのでは、迷惑な話にもなります。

ヨットの重要ポイントは、まずデザイン、これは帆走性能におけるデザイで、但し、何が何でも速い方が良いというのでは無く、どのレベルの帆走を目指しているのか? そして、デザインでもうひとつ大切なのが、見た目のデザインです。美しいデザインは必須だと考えます。もちろん、感じ方は人それぞれですから、自分が美しいと思うデザインです。

ヨットは、ハルはサンドイッチ構造で厚みを出し、さらに内部から補強します。補強はストリンガーと言って、人間の骨みたいなもの、加えて、バルクヘッドも補強になりますし、さらに言えば、船内の家具類も補強とする事ができます。 さて、これらをどのように施工するかで、違いが出てきます。モールドから造って、パテ、ボルト/ナット等でやるか、或は、全てをラミネートして一体化させるか? もちろん、前者のやり方でも問題があるわけではありません。 ただ、強度が違うので、フィーリングに影響しますし、時化た時に違いが出てくる。でも、全部が全部そうしなければならないわけでは無い。質を何処まで求めるか次第と言えます。

これらにカーボンとか使えば良い事は解っていても、価格が何倍も違います。ですから、それよりも、職人がどれだけ手間をかけて造っているかの方が、より大きな違いを生み出すと思います。パテで接着するか、ラミネートするかは、職人の手間は大きく異なります。でも、反面、その分値段も上がります。つまり、そのヨットがどんなヨットで、誰が建造しているのかにかかっています。

量産艇はたくさん建造しなければなりませんので、手間をできるだけかけたく無い。でも、沿岸で、普通に使う分に問題があるわけではありません。一方、少量生産艇では、手間をかけて質を上げていきます。量産と同じでは市場競争に勝てるはずもないですから。ですから、少し値段も高くなりますが、質も良くなります。質が違うと何が変わるのか? セールフィーリングです。な〜んだ、そんな事かと思われる方もおられると思います。 でも、セーリングを主にする方にとっては重要な、それこそ主目的なんじゃないかと思います。

そこで、最近の傾向は、手間をかける艇では、東ヨーロッパに建造拠点を移してきました。人件費が安いからです。それでいて、高い建造技術を持っている造船所です。昔からヨーロッパの下請けをやってきた造船所もたくさんあり、元々、昔から高い造船技術を持っていた国だったりもします。また、完成まででは無く、一部をそういう東ヨーロッパで造り、完成は自国でやるという造船所もあります。最近では、量産艇でも東ヨーロッパ産というのも多くなってきました。

どこで建造していようが、重要な事は、そこから出てきたヨットはどうなのか? で判断するべきです。でも、繰り返しますが、市場で生き残ってきている造船所から出てくるヨットはみんな良い。ただ、良いか、もっと良いか、超良いかの違いです。例えば、家庭の一般家具にしても、どれだって用を成します。使えないものなんて無い。でも、その中でも質の違いがあるのと同じですね。要はどこに自分のこだわりを持つか次第という事になるかと思います。

ですから、良いヨットは、コンセプトに合った造り方をしているのか? 実際、そうしています。それを我々が理解する事が大事なんだろうと思います。


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