第九十四話 スピードバリエーションの理由


      

デイセーラーはレーサーではありません。だから、デイセーラーにおけるスピードのバリエーションは非常に広くなっています。もし、レーサーを造るのなら、スピード優先(レーティングもありますが)で、乗り心地とかフィーリングとか、どうだって構わない。勝つか負けるかの話です。そうすると、どうしても新しく出てくるヨットには敵わなくなります。技術がどんどん開発されていきますから。

その事が買い替えを促す事もありますが、一方ではこれを嫌って、ワンデザイン、全く同じモデル同士でレースをやろうという気運もどんどん広がっています。これなら、買い替えに対する負担が少なくて済みますし、長期間に渡って、その同じモデルでレースを楽しむ事ができます。

ところが、残念ながら、日本では同じモデルが数多く入ってこないという事もあって、一部のレーサーを除いては、あまりこのワンデザインレースが広がっていきません。それで、やっぱり、一般のレースに参加する事となり、そうすると、ワンデザイナーレーサーとして開発されたヨットは、レーティングの事なんかは考えていませんから、レーティング上、かなりの不利となり、また、サイズにもよりますが、30フィート程度だと、大きなレーサーには敵わず、ファーストホームを狙う事も難しくなると思います。という事は、こういうワンデザインレーサーは少なくとも、日本では流行らないのではなかろうか?

さて、一方、デイセーラーには、レーサーに匹敵するスピード性能を持つのもあります。同時に、クルージング艇より少し速い程度のスピード性能を持つのもあります。何故、こんなにスピードレンジの幅が広いのか? 他のコンセプトのヨットにはこんな広いスピードバリエーションはありません。

クルージング艇レベルのデイセーラーだったら、セールがかなり小さくできます。排水量が断然軽いわけですから、セールも小さくて済みます。という事は、セール操作が非常に容易になります。それでも、クルージング艇より速く、しかも、フリーボードは低いので、スピード感としてはとても高く、ですから、走っていて面白いわけです。もちろん、反応も良い。つまり、セールフィーリングが高い。

レーサーの様なスピード性能を持つデイセーラーは、もちろん、ワンデザインレースをする事も多いのですが、そればかりでは無く、レース以外では、家族を乗せてデイセーリングを楽しんでいて、割合的には、レースよりもデイセーリングとして使う事の方が多いそうです。ですから、シンプルではあっても、内装はきちんと造られています。もちろん、シングルハンドを可能にしているという点も、家族と楽しめる所以でもあると思います。

さて、これら両者のデイセーラーの間には、数多くのデイセーラーが存在し、これらの狙いは何なのか?極端に居住性を求めるのでは無く、極端にスピードを求めるのでは無く、スピード性能はある程度に抑えたとしても、それでも十分に楽しめるスピードなんですが、その代わりに、違う何かを獲得します。それは、セーリングの質の向上だと思います。走る面白さはもちろん、反応の良さ、滑らかさ、等ではないかと思います。ただ、真っすぐ走っているだけでも、違いが感じられます。その滑らかさは実に気持ちが良い。

つまり、デイセーラーはレースもクルージングもできるけど、最も大切なのが、セールフィーリングであり、セーリングの滑らかさを感じる事だと思います。操作性とか安定性とかはもちろんですが、走っていて良い気持ちというのは、これ以上あるでしょうか?これには、各人の感覚的バリエーションもあります。ですから、スピードバリエーションが広く、ヨットによって異なる。その幅が広い。そういうヨットなんだと思います。

良く言います。速ければ良いってもんじゃない。でも、遅いのは面白くない。その間で、良い気持ちにさせてくれるヨット、最高だと思います。そんなヨットでも、初心者でも操船はできます。でも、すぐにそのフィーリングを獲得できるとは限りません。でも、慣れて、意識がよりセーリングに注がれるようになってきたら、その良さがどんどん解ってきます。グッドフィーリングは、走る、走らない、安定性がどうこう、反応がどうこうというより、繊細な処にあります。ですから、それに見合う繊細な感性を持てば、これはセーリングを意識すればとも言えますが、誰でもそのグッドを味わう事ができます。操作が容易なのも、意識をよりセーリングに注ぐ為ではないかと思います。より速くを狙いますが、ただスピード計を追いかけるのとは違います。


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